夢の終わりに

第 3 話


凄い。
面白い。
かっこいい。
それしか頭に浮かばず、ただただ見入ってしまう。
どうやったらこんな事出来るんだよ?
普通は無理無理、こんな芸当曲芸師でもなきゃ無理無理。一緒にやらないかって誘われたけど、断って大正解!と、過去の自分をほめちぎった。
技が決まるたびに大きな拍手と大歓声。
パフォーマンスが一通り終わり、一礼をする姿も様に成り過ぎててカッコいい。男の俺でもそう思うんだから、女性達はもう完全に虜になっていて、黄色い声があちこちから飛んでくるし、中には連絡先をと声をかける凄い女性までいた。スカウトらしい人にも声をかけられ、困ったなと頬を書いている間にも、受け皿の中にはお金が次々と投げいれられる。
一緒に芸をしていた人は、この状況に怒ったり嫉妬したりということは一切なく、慣れたように笑って見ており、あ、こいつらこうなるの知ってて誘ったんだなと理解した。いろんな人に話しかけられ身動きが出来ない花形に代わり、周りに挨拶をし、次の芸を始めるための準備と、人の整理まで進めていく。もちろん金の回収も忘れない。
どうにかスカウトも女性も振り切った花形は、芸による汗か冷や汗か。一見では判断できない汗を額から流し、困ったと眉をわずかに寄せた顔で戻ってきた。そして俺たちを視界に入れると、今までの真剣だけど、どこかつまらなそうな表情から一転し、まるで向日葵を思い出させる眩しいばかりの笑顔を向けてきた。いやー眩しい。まさに好青年というその笑みに、若いね!いいね若いって!と、ちょっとだけ嫉妬する。あーでも、俺が若いころも爽やか好青年やれたかって言うとやれなかったから、これは完全に妬みだ。すまん。

「ルルーシュ、リヴァル、来てくれたんだ」
「よっスザク!大盛況だな!」

こちらも明るく返す。スザクは人垣の中に埋もれた俺たちの所へ近寄ると、こっちこっちと手を引かれ、ロープの内側に足を踏み入れた。本来なら、芸を邪魔しないように、そして芸人もここの外では芸をしないようにという区切りのロープなのにいいんだろうか?と思うが、他の芸人もにこにこ頷いているから事前に話済みらしい。

「ここで見てて」

最前列の中の最前列。そこに折りたたみの椅子まで用意される至れり尽くせりっぷりに、いいのかよ!?周りの視線が痛いんだけど!?と肩身の狭い思いをしたが、ルルーシュは平然とその椅子に腰かけた。ここまで来る間に疲れたのかもしれない。あたりまえのようにペットボトルの紅茶まで手渡される高待遇に、周りの視線がさらに痛くなった。特に女の人の視線が痛すぎる。

「僕、今日は次で上がるから、そこで待っててよ」
「おいおい、終日いなくていいのかよ?」
「まさか。いくら僕でも体力が持たないよ」

朝からここでやってるんだよ?と笑うが、うそつけ、と言いたくなる。まあ、ここのパフォーマンスは肉体勝負だから、いくら俺たちが人外扱いしている体力バカでも疲れるのかもしれない。見た目の話で考えてみれば、ほかのメンバーはみな筋肉隆々で、そんな男たちに埋もれてしまうと、その体はどこか頼りなく見えてしまう。いや、筋肉がしっかりついてて、同じ男としては羨ましい体だが、周りはボディービルダーか?と思うほどの筋肉だるまだから、細身でまだ20前半代という若さのスザクが頼りなく見えてしまうだけだ。見えてしまうだけで、そこの筋肉だるまよりよっぽど体力がある。筋力も見た目通りではなく、恐らくここにいる全員と勝負しても負けないだろう。
曲に合わせ、筋肉だるま、もとい芸人達が次々とパフォーマンスを行い、スザクもそれに混ざる。あまりにも自然な彼らの動きに、まさか昨日急きょスザクが参加することが決まったなんて誰も思わないだろう。
昨日たまたま出会った芸人たちは、以前もスザクとこうして路銀稼ぎをした仲間なのだという。もちろん芸人たちはちゃんとそれを仕事にし、祭りのある場所へ移動して歩いている。俺たちのような旅人には、いや、普通に生きるにしてもお金は必要だ。だから俺も日雇いの仕事をしたり、ちょっとした品物を運んだりと(違法なものは運んでないからな!多分)生活費を手に入れている。 スザクは以前サーカス団と行動をした経験もあり、芸に関してはそれなりに明るく、その伝手で彼らに一緒に仕事をと持ちかけられた時にも即戦力として加わったんだとか。
いやいや、俺も長年バックパッカーやってるけどさ、サーカス団員に声かけられたり、パントマイムショーに参加しようなんて声掛けられた経験ないからな?未経験だからな?ルルーシュだってそうだぞ?でもあれか、芸人たちは見ているのかもしれない、筋肉を。この筋肉、やれる。これは出来る筋肉だ。これだけの筋肉なら、ここを任せられる。そんな筋肉の語り合いが繰り広げられているのかもしれない。俺には一生縁は無いだろう。もちろんルルーシュにも。 そう言えば、どうしてスザクを誘ったか聞いたら、儲かるから。と即答されたっけ。こうしてうごくスザクは花があり、人目を引きつけるから、人だかりも出来るし、そりゃあ儲かるだろう。解る、解るぞ。俺も筋肉だるまだったら、スザクを引きこんだだろう。
ルルーシュは美形だが生きるのが大変な美形だ。その点スザクは生きるのも楽しそうな美形だ。入れ替わるならスザクだな。断然スザク。モテモテだし、ほんと羨ましいぜ。
そんな事を考えながら、圧巻のパフォーマンスを見つめていた。
すごい、ほんとすごい。 あいつらももし、戦争の無い平和な世界で生まれていたなら、こうして楽しそうに好きな事をして生きていたんだろうなと思うと、視界が歪む。生き方を縛られ、戦い死んでいった二人。あいつらは、この二人のように何にも縛られず、楽しそうに笑う事はあったのだろうか。
学生だった時、少しでもそうやって笑えていたならいいけれど。
遠い、遠い懐かしい日々。
それは、まだ俺が人だった頃の話。

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